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海外事業を進めるうえで、経営者にとって難しい判断の一つが、「どのタイミングで、どこまで経営資源を投入するか」です。

海外市場に可能性を感じても、最初から人材や在庫、製造設備、現地拠点などに大きな投資をするのはリスクがあります。一方で、投資を抑えすぎれば、いつまでも市場調査や商談の段階から抜け出せず、本当に事業になるのかを判断できません。

特に海外事業では、実際に市場に出てみなければ分からないことが数多くあります。

商品は本当に売れるのか。想定した価格は受け入れられるのか。どの販売チャネルが適しているのか。初回注文の後に再注文が入るのか。そして、物流費や販促費まで含めても利益が出るのか。

こうした不確実性が残る中で、どこまで投資し、何を確認できたら次の投資に進むのか。これを経営として判断していく必要があります。

そこで、海外事業への投資は最初から総額を決めるのではなく、「市場検証→事業検証→本格展開」と段階を分け、それぞれの段階で何を確認するのかを明確にすることが重要です。

「いくら投資するか」を先に決めるのではなく、次の投資判断をするために、今の段階で何を検証すべきかを考える。この考え方が、海外事業への投資の基本になります。

この記事でわかること

  • 海外事業への投資は総額ではなく、「市場検証→事業検証→本格展開」の段階ごとに判断する
  • 次の投資に進むかは、「売れる・儲かる・回せる」の3つの観点で判断する
  • 事業の成長とともに、投資の対象はOPEX、運転資金、CAPEXへと変わる
  • 本格展開では「どこでつくるか」が、投資額を左右する大きな経営判断になる
  • 撤退基準は失敗のルールではなく、次の投資に進むための条件として事前に決めておく

海外事業への投資は「金額」ではなく「段階」で考える

海外事業に必要な投資額は、企業によって大きく異なります。

商品、対象国、販売チャネル、物流形態、既存の製造能力、現地パートナーの有無などによって、必要となる経営資源はまったく違うからです。

したがって、「海外事業にはいくら必要か」という問いだけでは、適切な投資判断はできません。経営として考えるべきなのは、どの段階で、何を確認するために、どこまで経営資源を投入するのか、ということです。

海外事業は、大きく3つの段階に分けて考えることができます。

段階確認すること主な取り組み経営判断
市場検証顧客は買うのかサンプル、商談、テスト販売市場に可能性があるか
事業検証継続して売れ、利益が出るのか初回販売、規制対応、物流、販促事業として成立するか
本格展開規模を拡大しても再現できるか人材、在庫、営業体制、製造能力本格的に経営資源を投入するか

段階を分ける目的は、単にリスクを小さくすることではありません。

不確実性が高い段階では投資を限定し、市場で得られた情報をもとに、事業の確度が高まったところへ経営資源を集中させていく。限られた経営資源をどこに配分するのかという、経営そのものの問題だと考えています。

1.次の投資に進むかは「売れる・儲かる・回せる」で判断する

では、どの段階で次の投資へ進むべきなのでしょうか。

私たちは、「売れるか」「儲かるか」「回せるか」という3つの観点から事業を見ることが重要だと考えています。

最初に確認するのは、本当に「売れるか」です。

試食で「おいしい」と評価される。バイヤーから高い評価を得る。展示会で多くの問い合わせが入る。もちろん、これらも重要な情報です。しかし、それだけで市場性が確認されたとは言えません。

最終的に見なければならないのは、顧客がお金を払って買うかどうかです。そして、初回注文だけではなく、2回目、3回目の注文につながるか。

海外で営業をしていると、商談では非常に高い評価を受けたのに、実際の注文にはつながらないということがあります。だからこそ、机上で市場性を判断し切ろうとするのではなく、できるだけ早い段階で市場に出て、事実を取りに行くことが大切です。

次に見るのが、「儲かるか」です。

商品が売れたとしても、それだけで事業として成立するとは限りません。商品原価に加えて、国際物流、関税、現地物流、倉庫、現地ディストリビューター(卸売業者)のマージン、販促費などを含めても利益が残るのかを見る必要があります。

売れる商品と、儲かる事業は同じではありません。

また、海外事業では売上の拡大に伴って在庫や売掛金も増えていきます。利益が出ていても、キャッシュが不足することがあります。PL(損益計算書)上の利益だけではなく、キャッシュフローや必要な運転資金まで含めて事業性を見る必要があります。

そしてもう一つが、「回せるか」です。

売れて、利益が出ても、安定供給できなければ事業は拡大できません。製造能力、原材料調達、規制対応、物流、在庫、品質管理、現地営業など、販売量が増えても事業を継続的に運営できる体制をつくれるか。

「売れる・儲かる・回せる」。

この3つの確度を高めながら、次の投資を判断していきます。

2.段階投資の本質は、リスク回避よりも資源配分にある

段階投資というと、失敗した場合の損失を小さくするための考え方と思われるかもしれません。

もちろん、それも一つの目的です。しかし、経営という観点から考えると、それ以上に重要なのは、限られた経営資源を、確度の高まった事業機会に集中させることだと思います。

市場から得られた事実をもとに、追加投資するのか。商品や販売チャネルを変えるのか。製造能力を増強するのか。海外生産へ移行するのか。

場合によっては撤退し、別の市場や事業へ経営資源を振り向けることも選択肢です。

海外事業への投資判断は、最終的には「どの市場に、どの商品で参入し、どこでつくり、どこまで経営資源を投入するのか」という経営戦略そのものだと考えています。

事業の成長に合わせて、投資対象と経営判断を変える

1.事業の成長に伴い、投資の対象も変わる

海外事業では、事業の段階によって必要となる資金の性質も変わります。

初期段階では、市場調査、サンプル、営業活動、規制対応、販促など、市場をつくるためのOPEX(事業の運営費用)が中心です。

販売が始まれば、製造、輸送、在庫、売掛金など、事業を回すための運転資金が必要になります。特に食品では、製造してから輸送し、現地で販売して代金を回収するまでに時間がかかるため、売上の拡大とともに必要な運転資金も増えていきます。

さらに事業規模が大きくなると、製造ライン、生産設備、物流拠点、工場などへのCAPEX(設備投資)が重要な経営テーマになります。

OPEX、運転資金、CAPEXと、事業の成長に伴って投資の対象も変わります。

海外事業への投資は、単年度の予算だけで考えるのではなく、事業が成長したときにどのような経営資源が必要になるのかまで見据えて考えておく必要があります。

2.本格展開では「どこでつくるか」が大きな経営判断になる

食品メーカーの海外事業が一定の規模まで成長すると、投資額を大きく左右する判断が出てきます。

「どこでつくるのか」という問題です。

既存の国内工場から輸出を続けるのか。国内工場の製造能力を増強するのか。海外の製造パートナーに委託するのか。それとも、海外に自社工場を建設するのか。

既存の国内工場を活用できれば、大きな設備投資を抑えながら、日本で培った製造や品質管理の仕組みを活用できます。

一方で、海外売上が拡大すれば、輸送費やリードタイム、関税、供給能力などが制約となり、国内の製造能力を増強する、あるいは海外生産へ移行する方が合理的になる場合もあります。

海外で自社工場を建設する場合には、土地・建物・製造設備だけを考えればよいわけではありません。人材採用、品質管理、原材料調達、現地マネジメント、法規制への対応など、新たな経営基盤そのものを構築する必要があります。

したがって、「国内生産と海外生産のどちらが安いか」という単純なコスト比較だけでは判断できません。

市場規模や成長性、利益率、必要となる生産能力、物流、品質、原材料調達、供給リスク、投資回収期間などを総合的に見ながら、どこに資本を配分するのかを判断する必要があります。

また、CAPEXの判断にはタイミングの難しさがあります。

市場が十分に検証される前に大規模な設備投資を行えば、需要が想定を下回った場合に大きな固定資産を抱えることになります。そのため、基本的には市場検証、事業検証を経て、CAPEXを含む本格投資へ進むという順番になります。

一方で、需要が完全に見えてから設備投資を決めたのでは遅い場合もあります。

工場建設や製造ラインの増強には時間がかかります。需要が急拡大してから投資を始めれば、生産能力が追いつかず、せっかくの市場機会を逃してしまうかもしれません。

需要が完全に確定するまで待つのではなく、どの程度まで不確実性が下がれば先行して投資判断できるのかを見極める。ここは経営者にとって非常に難しい判断の一つだと思います。

次の投資と撤退を決めるためのルールを持つ

1.撤退基準は「失敗の基準」ではなく、次の投資を決めるためのルール

海外事業を始める際には、次の投資に進むための条件もあらかじめ考えておく必要があります。

例えば、一定期間内に複数の取引先から再注文が発生する、一定水準の粗利率を確保する、特定のディストリビューターだけに依存せず販売できる、といった条件です。

条件を満たせば追加投資する。満たさなければ、商品、価格、販売チャネルなどを見直す。それでも成立しなければ、一度撤退するという判断も必要になります。

撤退基準というと、事業に失敗した場合のルールのように聞こえますが、むしろ「どの条件を満たせば次の投資に進むのか」という追加投資のルールとして考えた方がよいと思います。

事業を始めてから撤退を判断するのは簡単ではありません。すでに投資した金額や、事業に携わってきた人たちの思い入れも判断に影響します。

だからこそ、投資する前に次の意思決定の条件をある程度決めておくことに意味があります。

2.海外事業は、仮説検証と経営判断の繰り返し

私自身、コンサルタントとして数多くの成長戦略や海外事業戦略に携わる一方、事業会社の経営者として海外事業をゼロから立ち上げる経験もしてきました。

そこで強く感じたのは、戦略として正しいことと、実際に事業として成立することの間には、思っている以上に距離があるということです。

市場規模が大きくても、自社の商品が売れるとは限りません。商談で高い評価を得ても、注文につながるとは限りません。初回注文が入っても、再注文が入るとは限りません。そして、売上が伸びても、利益やキャッシュが残るとは限りません。

だからこそ海外事業では、日本国内で完璧な計画を立ててから動こうとするのではなく、市場で事実を取りに行くことが重要だと考えています。

まず小さく市場に出す。顧客の反応を見る。その結果を踏まえて商品、価格、チャネルを修正し、もう一度市場で検証する。

そこで得られた事実をもとに次の投資を判断し、事業の確度が高まったところに人材、運転資金、製造能力などの経営資源を投入していく。

海外事業は、こうした仮説検証と経営判断の繰り返しです。

まとめ

海外事業への投資で大切なのは、最初に大きな総額を決めることではありません。

次の投資判断をするために、今の段階で何を検証すべきなのか。その結果、何が確認できたら次に進むのか。これを明確にしておくことです。

市場検証、事業検証、本格展開と段階を分け、「売れる・儲かる・回せる」の確度を高めていく。

事業が成長すれば、投資対象もOPEXから運転資金、さらに生産設備や工場などのCAPEXへと変わっていきます。その過程では、国内で製造能力を増強するのか、海外で委託生産するのか、自社工場を持つのかといった、より大きな経営判断も必要になります。

海外事業は、最初から大きな賭けをする必要はありません。一方で、リスクを恐れて調査だけを続けていても、事業は前に進みません。

経営として許容できる範囲で市場に出て、事実をつかみ、その事実をもとに次の投資を判断する。その繰り返しによって、海外事業を育てていくことが重要だと考えています。

Blue Polarisは、戦略を描くだけではなく、商品開発、輸出実務、現地営業まで実行しながら、市場から得られた事実を次の経営判断につなげます。

海外事業を「計画」で終わらせず、「事業」にする。

そのための戦略策定から実行、そして次の投資判断まで、私たちは伴走します。

この記事の監修者Blue Polaris CEO片山 良宏

アクセンチュアで製造・流通業界 日本統括Managing Directorとして、消費財・食品・小売業を中心に50件以上のプロジェクトを統括。デイブレイク株式会社 取締役副社長 兼 DayBreak USA CEOとして、特殊冷凍技術を活用した海外事業をゼロから立ち上げ、バリューチェーン全体を牽引した。プロフィール ›

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